24:『森は海の恋人』は本当だった

『森は海の恋人』という言葉は、単なる詩的な表現ではなく、科学的にも実証されている環境再生の鍵です。流域思考によって森・川・海のつながりを理解し、持続可能な自然との共生を実現する道が開かれています。

🌲『森は海の恋人』とは?

宮城県気仙沼市の漁師・畠山重篤さんが提唱したこの言葉は、「森が海を育てる」という自然の仕組みを端的に表しています。森の落葉広葉樹が生み出す腐葉土は、雨によって川へ流れ、栄養分として海へと運ばれます。この栄養が植物プランクトンを育て、魚介類の豊かな漁場を形成するのです。

🌊流域思考とは?

流域思考とは、森・川・海をひとつのつながった生態系として捉える考え方です。従来の環境保全が個別の場所(森だけ、海だけ)に焦点を当てていたのに対し、流域思考では「上流から下流までのつながり」に注目します。

この考え方に基づき、気仙沼では漁師と上流の農家が協力して植樹活動を行い、流域全体の環境再生に取り組んでいます。例えば、広葉樹を植えることで腐葉土が増え、川を通じて海に栄養が届くようになります。

🐟震災を契機に進んだ環境再生

2011年の東日本大震災では、気仙沼市の舞根地区が津波で大きな被害を受けました。宅地や農地が海面下に沈み、塩性湿地が出現しました。この汽水域は、川と海をつなぐ重要な生態系であり、絶滅危惧種のニホンウナギなどが生息する貴重な場所です。

しかし、河川護岸が水の循環を妨げていたため、護岸の一部を開削する必要がありました。行政や住民の理解を得るために、研究者と協力して生物データや環境調査を重ね、説得を続けた結果、護岸の開削が実現。ウナギやメダカ、アユなどが戻ってくるなど、自然再生の成果が現れました。

🌱環境教育と地域の未来

『森は海の恋人』の活動は、環境教育にも力を入れています。毎年500人以上の子どもたちが牡蠣養殖場や森で体験学習を行い、自然のつながりを学んでいます。また、全国の教員を対象とした研修会も開催され、流域思考の普及が進んでいます。

さらに、荒廃した針葉樹林を広葉樹林に転換する森づくりや、湿地に木道を設置して環境教育の場とするなど、地域の活性化にもつながっています。これらの取り組みは、SDGsの目標「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」の具体化にも貢献しています。

🔗流域思考がもたらす未来

流域思考による環境再生は、単なる自然保護にとどまらず、地域の経済・文化・教育を巻き込んだ持続可能な社会づくりのモデルです。森と海のつながりを理解し、地域全体で協力することで、自然と人間が共生する未来が実現可能になります。

『森は海の恋人』は本当だった——この言葉が示すように、私たちの暮らしは自然のつながりの中にあります。流域思考を軸に、環境再生の道を歩むことは、未来の世代への贈り物でもあるのです。

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