日本列島を縁取る豊かな海岸線。その沿岸に揺れる海藻は、古来より食材や肥料として人々の暮らしを支えてきた。しかし今、海藻は新たな役割を担おうとしている——それは「エネルギー資源」としての可能性だ。気候変動が深刻化する中、再生可能エネルギーの選択肢を広げることは喫緊の課題であり、海藻はその解決策の一端を担う存在として注目されている。
海藻がエネルギーになるとは、どういうことだろうか。海藻には炭水化物、特に多糖類が豊富に含まれており、これを微生物の働きで分解・発酵させることでバイオガス(主にメタン)やバイオエタノールを生成することができる。陸上のバイオマス資源——例えばトウモロコシやサトウキビ——と同様の原理だが、海藻にはいくつかの利点がある。まず、栽培に淡水や肥料を必要とせず、陸地を占有しない。さらに、成長速度が速く、収穫までのサイクルが短いため、持続可能な資源としてのポテンシャルが高い。
特に注目されているのが、ホンダワラ類やアマノリ、マコンブなど、日本の沿岸に自生・養殖される海藻種だ。これらは地域ごとの海洋環境に適応しており、地元の漁業や海藻産業との連携によって、エネルギー生産と地域経済の活性化を同時に実現する可能性を秘めている。たとえば、鳥取県の日本海沿岸では、冬季に大量発生する漂着海藻を回収し、バイオガス化する実証実験が行われている。これにより、廃棄物の削減とエネルギー創出が両立され、地域の環境負荷を軽減する取り組みとして注目を集めている。
また、海藻由来のバイオ燃料は、航空機や船舶などの大型輸送手段への応用も期待されている。これらの分野では電動化が難しく、液体燃料の代替が求められているため、海藻バイオ燃料は脱炭素化の鍵となる可能性がある。国際的にも、ノルウェーや韓国などが海藻バイオ燃料の研究開発を進めており、日本の技術と海洋資源を活かした国際連携の道も開かれている。
しかし、課題もある。海藻の収穫・加工にはコストがかかり、安定した供給体制の構築が必要だ。また、エネルギー収率や発酵効率の向上には、微生物の選定や前処理技術の改良が不可欠である。さらに、海洋生態系への影響を最小限に抑えるためには、環境モニタリングと持続可能な養殖管理が求められる。
それでも、海藻からエネルギーへの転換は、単なる技術革新にとどまらない。それは、海と人との関係を再構築し、地域資源を活かした循環型社会への一歩でもある。海藻は、目に見えない鉄や窒素を海に供給し、漁場を育む「海の森」でもある。その海藻をエネルギーとして活用することは、自然の恵みを余すことなく活かす知恵であり、未来への贈り物なのだ。

コメント