27:沈黙する海の声を聞く

鉄が足りない海は、沈黙する命の声を秘めている。植物プランクトンの成長を阻み、生態系の連鎖を断ち、海の豊かさを静かに奪っていく。ここでは、鉄欠乏がもたらす海の風景とその背景を、わかりやすく2000文字で解説します。

🌊 鉄が足りない海とは?

海の中で植物プランクトンが育つためには、窒素やリンなどの栄養塩だけでなく、鉄も不可欠です。鉄は光合成を助ける酵素の構成要素であり、特に大型の珪藻類などの成長に必要です。しかし、世界の海の約20%は「HNLC海域(High Nutrient, Low Chlorophyll)」と呼ばれ、栄養塩は豊富なのに植物プランクトンが増えない不思議な海域です。その原因が、鉄の欠乏なのです。

🌱 鉄がないと何が起こる?

鉄が不足すると、植物プランクトンの増殖が制限されます。これは陸上の植物が肥料不足で育たないのと同じ理屈です。植物プランクトンは海の食物連鎖の基盤であり、これが育たないと小型動物プランクトン、魚類、さらには海鳥や哺乳類まで影響を受けます。つまり、鉄の欠乏は海の沈黙=生態系の崩壊を引き起こすのです。

🏞 なぜ鉄が足りなくなったのか?

本来、鉄は陸地から川を通じて海に供給されます。特に「腐植酸鉄」と呼ばれる形で、森の落ち葉や土壌から生まれた腐植酸が鉄イオンと結びつき、川を下って海へと流れ込みます。しかし近年、ダム建設や護岸工事などにより、森と川と海のつながりが断たれ、腐植酸鉄の供給が激減しました。

🐚 鉄不足がもたらす「磯焼け」

日本沿岸では、鉄不足によって藻場が衰退する「磯焼け」が問題になっています。藻場は魚の産卵場や貝類の棲みかであり、海のゆりかごとも呼ばれます。鉄が足りないと藻類が育たず、ウニなどの食害も加わって藻場が消滅。結果として、痩せたウニだけが残る沈黙の海が広がってしまうのです。

🌍 鉄と地球温暖化の関係

鉄の供給は、海のCO₂吸収能力にも影響します。植物プランクトンが増えると、光合成によってCO₂を取り込み、海底に沈降することで大気中のCO₂濃度を下げる効果があります。実際に、鉄を海に散布する実験では、クロロフィル濃度が17倍に増加し、海水のCO₂分圧が低下したことが確認されています。

🌱 再生への取り組み

このような状況を改善するため、日本各地では「海の森づくり」や「森は海の恋人」運動が展開されています。川の上流に植林を行い、腐植酸鉄の供給を回復させることで、藻場の再生を目指す取り組みです。藻場が復活すれば、水質浄化や漁獲高の向上、さらには観光資源としての価値も高まり、海が再び語り始めるのです。

🧪 科学的アプローチと未来

鉄散布による海洋肥沃化は、地球温暖化対策としても注目されています。ただし、植物プランクトンの増加が生態系に与える影響や、海底に沈降するか表層で分解されるかなど、リスク評価と慎重な研究が必要です。日本では「SEEDS実験」などが行われ、鉄濃度調節の効果と影響が科学的に検証されています。

🌌 終わりに:沈黙する海の声を聞く

鉄が足りない海は、見た目には静かでも、内側では命の連鎖が断たれ、声なき悲鳴を上げています。その声に耳を傾け、森と海のつながりを取り戻すことが、未来の海を守る第一歩です。沈黙する海の声を聞くことは、私たちの暮らしと地球の未来を見つめ直すことでもあるのです。

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