⑤海藻が語る環境の変化
海藻は、海の中で静かに揺れる存在でありながら、私たちが気づかぬうちに海洋環境の変化を語る「語り部」のような役割を果たしている。海藻の分布、成長、色、種類の変化は、海水温、栄養塩、光量、pH、そして人間活動の影響を反映しており、まさに海の健康状態を映す鏡といえる。
海藻の分布が示す温暖化の兆候
近年、日本沿岸では南方系の海藻が北上し、逆に寒冷な海域に適応した海藻が減少している。たとえば、北海道沿岸ではかつて豊富だったホンダワラ類が減少し、代わりに温暖な海域に生息するアオサ類が増えている。これは海水温の上昇による生育環境の変化を示しており、地球温暖化の影響が海藻の分布に現れている証拠だ。
海藻の色と形が語る水質の変化
海藻の色や形も環境変化の指標となる。たとえば、栄養塩が過剰に供給されると、アオサやアオノリなどの緑藻類が異常繁殖し、いわゆる「アオサの大発生」が起こる。これは富栄養化による水質悪化のサインであり、河川から流入する農業排水や生活排水が原因となっていることが多い。逆に、栄養塩が不足すると、褐藻類の成長が鈍化し、海藻の森が縮小する。これは漁業資源の減少にもつながる深刻な問題だ。
海藻が示す酸性化の影響
海洋酸性化も海藻に影響を与える。二酸化炭素の吸収によって海水のpHが低下すると、石灰質の構造を持つ海藻(例:石灰藻)は成長が阻害される。これはサンゴと同様に、海洋生態系の基盤を揺るがす変化であり、海藻の種類や構造の変化を通じてその兆候を読み取ることができる。
海藻が語る人間活動の痕跡
沿岸開発や埋立、港湾整備などの人間活動も海藻に大きな影響を与える。海底の地形が変わることで、海藻が付着できる岩場が失われたり、濁りによって光が届かなくなったりする。また、漁業による海藻の過剰採取も、海藻群落の回復力を低下させる。これらの変化は、海藻の量や種類の減少として現れ、地域の海洋環境の劣化を物語っている。
海藻を通じた環境モニタリングの可能性
こうした海藻の変化を定期的に観察・記録することで、海洋環境の長期的な変化を把握することができる。実際、海藻を用いた環境モニタリングは、自治体や研究機関によって行われており、海藻の群落構造や季節変化を追うことで、気候変動や水質の変化を早期に察知する手段となっている。
海藻が語る未来へのメッセージ
海藻は声を持たないが、その姿に耳を傾けることで、私たちは海の変化を知ることができる。海藻が減少することは、海の生態系が揺らいでいることの警告であり、逆に海藻が豊かに繁茂していることは、海が健全である証でもある。海藻を見つめることは、海の未来を見つめることにほかならない。

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