②海の恵みと危機

海の恵みと危機:私たちが守るべき青の命脈

日本列島は、四方を海に囲まれた「海洋国家」として、古来より海とともに生きてきた。漁業、海運、観光、そして文化――海は私たちの暮らしの根幹を支える存在であり、同時に、目に見えない形で地球環境のバランスを保つ重要な役割を担っている。海は酸素の半分以上を生み出し、気候を調節し、炭素を吸収する巨大な生命循環装置でもある。だが今、その海が静かに、しかし確実に危機に瀕している。

海の恵みとは何か。まず思い浮かぶのは、豊かな漁場だろう。日本近海は寒流と暖流が交差することで多様な魚種が生息し、世界でも有数の漁業資源を誇ってきた。サンマ、イワシ、マグロ、カニ、ホタテ――これらは食卓を彩るだけでなく、地域経済や文化の礎でもある。さらに、海藻類や貝類は健康食品としても注目され、海洋深層水や海底資源は新たな産業の可能性を秘めている。

しかし、こうした恵みは永遠ではない。近年、海洋環境の変化が急速に進み、漁獲量の減少、海水温の上昇、酸性化、プラスチック汚染など、複合的な危機が海を蝕んでいる。例えば、サンマの漁獲量は過去10年で激減し、かつての秋の風物詩が「高級魚」と化している。原因は海水温の上昇による回遊ルートの変化や、乱獲、さらには中国や台湾など他国との漁業圧力の増加などが挙げられる。

また、海洋プラスチック問題は、目に見える危機として私たちの前に立ちはだかる。世界中で年間800万トン以上のプラスチックが海に流れ込み、海鳥やウミガメ、魚類が誤食することで命を落としている。マイクロプラスチックは食物連鎖を通じて人間の体内にも入り込み、健康への影響が懸念されている。海はもはや「捨て場」ではなく、「守るべき命の場」なのだ。

さらに見逃せないのが、海洋の酸性化と酸素欠乏(貧酸素化)である。これらは気候変動と密接に関係しており、海の化学的性質を変化させることで、プランクトンや貝類の殻形成を妨げ、生態系全体に影響を及ぼす。とりわけ、鉄などの微量栄養素の供給が滞ることで、植物プランクトンの成長が阻害され、海洋の炭素吸収能力が低下する可能性がある。これは地球温暖化の加速にもつながりかねない。

こうした危機に対して、私たちは何ができるのか。まず必要なのは、「海の声を聞く」ことだ。科学的なモニタリングや市民参加型の調査を通じて、海の変化を可視化し、共有すること。そして、持続可能な漁業の推進、海洋保護区の拡充、プラスチック削減の取り組みなど、個人と社会の両レベルでの行動が求められる。海は沈黙しているが、確かにSOSを発している。その声に耳を傾け、未来の世代に青く豊かな海を手渡す責任が、今の私たちにはある。

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