① 日本海に抱かれた国:沿岸100%という地理的宿命
日本列島は、世界でも稀な「沿岸100%」の国です。特に日本海側においては、すべての都道府県が海岸線を持ち、海と密接に関わる暮らしが営まれてきました。北海道から九州北部まで、日本海に面する自治体は数多く、青森、秋田、山形、新潟、富山、石川、福井、京都、兵庫、鳥取、島根、山口、福岡などがその代表です。
この地理的特徴は、単なる地図上の事実ではなく、日本の歴史・文化・気候・産業に深く影響を与えてきました。古代から中世にかけて、日本海は朝鮮半島や中国との交易路として機能し、北陸や山陰地方には大陸文化の影響を受けた遺跡や風習が残っています。また、冬季にはシベリアからの季節風が日本海を渡り、大量の水蒸気を供給することで豪雪地帯を形成するなど、気候にも大きな影響を与えています。
🌊 閉鎖性の高い海域:日本海の構造的特徴
日本海は、ユーラシア大陸と日本列島に囲まれた「縁海」と呼ばれる閉鎖性の高い海域です。外洋との接続は、対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡など限られた浅い海峡に限られており、海水の交換は表層に限られています。このため、深層には「日本海固有水」と呼ばれる独自の水塊が存在し、約300m以深の海水は外洋の影響をほとんど受けず、100年ほどの周期で循環しています。
この固有水は、冬季にロシア沿岸で冷却された海水が沈み込むことで形成され、水温0〜1℃、塩分34.1程度のほぼ均質な性質を持っています。このような構造は、地球規模の気候変動の影響を早期に反映する「ミニ大洋」として、国際的にも注目されています。
🧭 地形と生態系の多様性
日本海沿岸は、太平洋側と比べて海岸線が比較的直線的で、砂浜や断崖、干潟など多様な地形が広がっています。特に北部では遠浅の砂浜が多く、南西部では複雑な湾や岬が形成されています。この地形の違いは、潮流や波の影響、生物の分布に大きく関わり、地域ごとの漁業形態や海洋文化の違いを生み出しています。
また、対馬暖流が南西部から北上することで、暖水性の魚類が回遊し、漁業資源の豊かさを支えています。一方で、海水温の上昇や海洋酸性化の影響により、漁獲量の減少や魚種の変化が報告されており、持続可能な漁業の確立が急務となっています。
🏞 森・川・海のつながりとその断絶
かつては、広葉樹林の山々から鉄分や腐植質を含んだ水が河川を通じて海へと流れ込み、海藻やプランクトンの成育を支えていました。しかし、護岸工事や都市化によってこの自然の流れが遮断され、海の栄養供給が減少しています。これにより、藻場の衰退や漁場の貧困化が進み、海の生態系に深刻な影響を与えています。
このような現状に対して、鉄炭だんごやフルボ酸鉄の投入など、市民による海の再生の取り組みが始まっています。沈没船周辺や鉄橋下の漁場が豊かになる事例も報告されており、鉄分の重要性が再認識されています。
🌐 沿岸100%の意味と未来への責任
日本海に面する「沿岸100%」という地理的宿命は、単なる自然条件ではなく、私たちの暮らしと未来に深く関わるものです。海は食料、文化、気候、そして環境のすべてに影響を与える存在です。だからこそ、私たちはこの海を守り、育て、次世代へとつなぐ責任を持たなければなりません。
この現状を踏まえ、次章では「海の恵みと危機:漁業資源の減少が示す警鐘」と題し、日本海の漁業資源の変化とその背景について詳しく掘り下げていきます。

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